1冊の本だとしたら

Twitterで流行り(?)の、1冊の本だとしたら、最初の1行になにが書いてあるか、というやつ。長すぎて1行というか冒頭数行みたいなことになっていますが、やってみました。

 

重岡

ライトを浴び慣れた芸能人は、瞬きの回数が少ないと聞いたことがある。そうかもしれない。年中ドライアイに悩まされている。でも眩しいのは変わりない。いつだって、ステージ上でライトが当たる瞬間は、視界が真っ白になる。上下右左が分からなくなって、足元を確認しても、自分の影さえ見えない。

 

桐山

子どものころは水が嫌いだった――――らしい。母親がそう言っていたけれども、自分としてはそんな記憶はほとんどない。かろうじて、幼稚園のプールの授業で、顔に水をかけられて大泣きしたのは覚えている。でもあれは、水が嫌だったんじゃなく、好きだった子に水をかけられたのがショックだったんだ。

 

中間 

昏い夜の空から白が絶えず舞い降りてくる。頬に触れた一片を冷たいと感じたのは一瞬で、そこから熱が奪われていく感覚はもうなくなっていた。音はまったくしない。雪と呼ばれるそれはこのまま永遠に降り続いて、世界を覆い尽くしてしまうかのようだった。

 

神山

買い換えた車はイグニッションキーが少し重たいところが気に入っている。首都高を走るとまるで血液を流れる血小板の一つにでもなった気分になる。赤いテールランプがいくつも揺れ、時に分岐して、ずっと車が連なる。誰かを乗せるのも、こうしてひとりで走るのも、どちらも昔から好きだった。

 

藤井

劇場が明るくなってもしばらく動けなかった。すみませんと声をかけられて、はっとして脚を避けて他の観客を通す。エンドロールで使われていた曲が、ずっと頭の中でリフレインしている。行かないと。分かっているのに身体は鈍くしか動かない。映画館特有の毛足の長いカーペットに足を取られる。

 

濱田

「これはうちの鍵。こっちは実家。車と、バイクと…。」キーチェーンについた鍵を、説明できるものだけ解説していく。父の車のスペア、机の引き出し、彼女の部屋、元カノの部屋。もう使わない鍵もずっと付けたまま、結構な重さになっている。でもこの重ささえも身体の一部といってもいい。

 

小瀧

「とりあえずまっすぐ行ってください。」そう言いながらシートベルトを絞めて気が付いた。タクシーで緊張しなくなったのはいつからだろう。最初の頃は反対方向から乗ったり、距離感が分からなくてメーターを気にしたり、ずいぶん長い間、慣れないと感じていた。それが、いつの間にか東京に馴染んでいた。

 

実は淳太くんのは、2年前に同じようなタグをやったときのもの。当時は三島由紀夫を読んでいたので、若干引きずられている気がしないでもない(そして力の入り方が違う、気がする。まあそこはお愛嬌ということで)。

 

フォロワーさんに自分について書いてもらったのと、その返礼で相手のことを書いたんだけど、冒頭の続きは、相手が物語を紡いで行ってくれるような気がしていて、若干外れていたとしても、その人の物語ができあがるだろうと思っている。あるべきところに落ち着いてくれる、と思う。そういう意味では、冒頭もむずかしいと思うけれども、最後のほうがむずかしいだろうな。